2018年4月3日火曜日

弁証法でレベルアップする方法② (自分の頭で考える哲学的思考法6)


 今回は、「自分の頭で考える哲学的思考法」の6回目として、
「弁証法の理論」
 についてお話しいたします。

1回目から読む場合は、こちらの記事をご閲覧ください。
「無知の知」はソクラテスの落胆だった? (自分の頭で考える哲学的思考法1)


 弁証法(べんしょうほう)はドイツの哲学者、ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルによって説かれました。

厳密に言うと「弁証法」というのはヘーゲル哲学に限定されたものではなく、もっと広義なものなのですが、一般的にはヘーゲル(と、その継承者のマルクス)の弁証法のことを指しています。


 ヘーゲルは、この世界の進化(成長、発展)のメカニズムを研究した哲学者です。
 弁証法は「進化のプロセス」を解き明かしています。

 そして、この弁証法のもととなっているのが、ソクラテスの「真の反ばく法」なんですね。


弁証法の理論


 ヘーゲルは、進化のプロセスについて研究しました。
 そしてヘーゲルは、ソクラテスが使った問答法――「真の反ばく法」に着目します。

**********
 これまで「正しい」とされてきたことを真の反ばく法のやり方で否定する――
 これが、進化がはじまる最初のステップだ。

 そして、真の反ばく法によって否定されたことを、さらに否定できたとき(克服できたとき)、進化(成長、発展)が起こる。
**********

 ヘーゲルはそのように考えたんですね。


 哲学用語を使って説明すると、こういうプロセスです。

テーゼ(定立)
  ↓
アンチテーゼ(反定立)
  ↓
ジンテーゼ(総合)


 わかりやすい言葉で言うと、こういうプロセスです。

いままで「正しい」とされてきた事(通常の事柄)
       ↓
その「正しい」はずのものに矛盾や問題点が見つかる
       ↓
矛盾や問題点を克服して、新しいかたちに進化する


 世の中の進化(成長、発展)はこのようにして起こることを、ヘーゲルは突きとめたんですね。


正しく否定することが進化のはじまり


 この進化のプロセス(弁証法)を理解していると、問題や矛盾が発覚するよりも先に、まだ目に見えてあらわれていない問題点(アンチテーゼ)を見つけだし、先手を打つようにしてレベルアップすることが可能になります。

 その方法は――

 先ほども述べましたが、このプロセスは「真の反ばく法」がもとになっています。

 つまり、
「いま現在うまくいっていること(テーゼ)に対し、『真の反ばく法』を使って否定要素(アンチテーゼ)を見つけだす」
 ということです。

「真の反ばく法」を使うことによって見つかった矛盾や問題点――
 それが進化への入り口になります

 あとは、考察と努力をくり返して、
「見つかった矛盾や問題を克服すること(否定の否定)」
 を成しとげるだけです。


 いま現在、「正しい」とされていることに対して、上手に否定できること
 (真の反ばく法で否定できること)

 その能力が、「先手をとるようにして、みずから進化をとげる」ということを可能にしてくれるんですね。


矛盾の克服(否定の否定)の例


 一連のお話の3話目(総合的に考える方法 ①)のなかで「多数決」という論題を例にあげていますので、この論題を弁証法にあてはめて考えてみましょう。

 このときのお話で、
「真の反ばく法を使って、多数決の矛盾を指摘する」
 ということを、すでにおこなっています。

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 多数決の決定が全面的に正しいとした場合、
「多数派の意見のほうが『事実』と異なっている」
 という可能性もあり得るのではないだろうか。

 たとえば、ガリレオ・ガリレイは地動説(地球が太陽のまわりを動いているという説)を唱えたことによって、
 天動説(地球を中心に天体がまわっているという説)を支持するカトリック教会の審問にかけられ、ガリレオの地動説は否定されたのだが……

 多数決によって決定された「天動説」は、はたして正しかったのだろうか?

 また、多数決によって「天動説」が正しいと決定したことによって、地球を中心に天体がまわりはじめたのだろうか?

 答えはどちらも「否(いな)」である。
 大多数の人が支持したからといって、「地球が太陽のまわりを動いている」という事実は変わらないのだ。

 多数決による決定は『事実』をゆがめる可能性がある。
 それがエスカレートすれば、集団心理による暴走を引きおこす可能性だってあるのだ。
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 この考察によって、
「多数決による決定は『事実』をゆがめる可能性がある」
「多数決は、集団心理の暴走を引きおこす可能性さえある」
 という「多数決の矛盾」が明らかになりました。

 では、『多数決』をさらに進化させるために、ここで浮き彫りになった「多数決の矛盾」を克服する方法を考えてみましょう。

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〈良識あるリーダーによる最終決定〉
 まず、集団のなかから「もっとも良識のある人物」を選出し、その人物をリーダーにする。
 そして、そのリーダーに「最終決定権」を与える。
 多数決で決まったことを「仮決定」とし、リーダーによって正式に決定するかどうかを判断してもらう。
 これにより、仮決定(多数派の意見)が『事実』をゆがめてしまったとしても、「良識のあるリーダー」によって、あやまった決定をくだすことを防ぐことができる。


〈第三者の意見をあおぐ〉
 多数決によって決まったことを「仮決定」とする。
 第三者(集団とは別の人)を顧問にまねいて、「仮決定」に対する意見をきく。
 万が一、仮決定(多数派の意見)が集団心理の暴走を引きおこしていたとしても、第三者による冷静な意見が集団心理を軌道修正してくれる。
 そして、多数決によって決まったことが第三者顧問からも容認されたときに、「仮決定」を「最終決定」へと格上げする。
**********


 おおむね、このような克服法が考えられると思います。
 この克服法による「意思決定のしかた」は、言うまでもなく、多数決(人数が多いほうの意見をそのまま採用)よりも、さらに進化しています。

 このような思考(弁証法)ができる人は、

多数決による決定が『事実』をゆがめてしまった――
集団心理の暴走を引きおこしてしまった――

 という問題が実際に起こるよりも早く、決定のしかたを進化させて、より高度な方法をとることができます。

 これが、弁証法的なレベルアップ(進化)なんですね。


弁証法に通じていれば、はるか先の未来を予測できる?


 すでに気づいている人もいるかもしれませんが……

 この弁証法のプロセスには、終わりがありません

 克服することによって進化したもの(ジンテーゼ)は、やがて通常のもの(テーゼ)になるからです。

 そしてそれは「真の反ばく法」のやり方によって否定されるもの(アンチテーゼ)となり、やがてそれは克服されて進化します(ジンテーゼ)

 しかし、その進化したもの(ジンテーゼ)は、いずれ通常のもの(テーゼ)となり――

 ……とまあ、こんな感じで終わりがないんですね。

 弁証法に精通している人であれば、
「はるか先の進化形(未来の姿)」
 というものを予測することも理論上は可能なのですが……。

 でもまあ、そんな先のことまで予測する必要なんてありませんよね(笑

 哲学者だった父は、
「ものごとには、すべてにおいてプロセス(過程)がある」
 と口ぐせのように語っていました。

 プロセスを無視して時代の先を行きすぎてしまうと、全体との調和をうしなうため、かえって数々の問題を生みだすことになります。

現状の一歩先を予測して、
先手を打つようにして、
ひとつ前へ進む――

 それで充分ですよね、世界と調和しながら楽しく幸せに生きるには。


哲学的思考を身につけて自分の頭で考える能力を養う それによってあなたの個性にみがきがかかる


 これで、「ソクラテスの問答法」からつづく哲学的思考法に関するお話は終了です。

人が言ったことの受け売りではなく、
自分の『心』を使って考え、
自分の力で結論(答え)を導きだし、
「自分の哲学」を持つ――

 その能力を養い、あなたの「個性」にみがきをかけるための参考になさってみてください。

 次のお話を読む


自分の頭で考える哲学的思考法
「無知の知」はソクラテスの落胆だった?(1)
まけない議論のやり方(2)
総合的に考える方法①(3)
総合的に考える方法②(4)
弁証法でレベルアップする方法①(5)
弁証法でレベルアップする方法②(6) 当記事
本質を突き詰めていく思考法(7)

「個性」に関するほかのお話はこちらをご参照ください。
自分の頭で考える それが個性のはじまり
自分らしく個性的になるには? 創作とオリジナリティ

この記事は、哲学者だった本条克明の父が、西洋哲学の知識のない本条克明にもわかるようにかみくだいて説明してくれた内容をほぼそのままお伝えしています。
 ここでは「人生で役立つ話」として哲学が語られおり、「学問」としてではなく「実践するための哲学」として語られた内容であることをご了承のうえご参考ください。