2018年4月13日金曜日

本質を突き詰めていく思考法 (自分の頭で考える哲学的思考法7)


 今回は、「自分の頭で考える哲学的思考法」の最終話として、
「本質を突き詰める思考法」
 についてお話しいたします。

1回目から読む場合は、こちらの記事をご閲覧ください。
「無知の知」はソクラテスの落胆だった? (自分の頭で考える哲学的思考法1)


 前回まで(1~6まで)は、ソクラテスのエピソードからはじまる一連のお話でしたが、今回はソクラテスの問答法(真の反ばく法)からはなれて、ちがう哲学的思考のやり方についてお話しいたします。


本質を突き詰める思考法


 哲学者だった父は、
「哲学は、ものごとの本質を解明する学問だ。そして本質にせまっていくことは、哲学の命題でもある」
 といった内容のことを、たびたび口にしていました。

 この世界のことを奥深くまで突き詰めていき、最終的には、
「真理(しんり) = 人類が『神』と呼んできたものの正体
 を突きとめることが、哲学の目指しているところなんですね。

 とは言うものの――

 まだ誰も、『究極の真理』を解明した哲学者はいません。
 これからもずっと、解明されることはないでしょうね。

究極の真理は「人知を超えているもの」であるため、人間の頭脳や理性ではどうやっても解明できません。


「究極の真理」を追求するとなると、どのような思考法を使っても『答え』にたどり着くことはできないのですが――

 何かのテーマについて考えるときに、
「本質を突き詰めていく」
 という思考法は、結論へと導いてくれることが多々あります。

 そして、それによって得られた結論(答え)は、

あなた自身の考えあなたの哲学

 と言えるんですね。


本質を突き詰めていく哲学的思考法


 何かについて考察をするとき、突き詰めて考えていくことで本質をさぐります。

 ちがう言い方をすると、
「よりシンプル(単純)に考えていく」
 ということです。

「総合的に考える思考法」では、広く、大きく、全体(両極)を見渡すようにして考察をしました。

「本質を突き詰めていく思考法」は、それとは正反対です。
 ものごとを複雑にしている部分を削り落とし、小さく、シンプルに考えていきます
 そのすえに残ったものが『本質』にあたるからです。


<本質を突き詰めていく思考のやり方>

 あなたが考えているテーマ(●●)に対して、
●●とは、なんだ?」
「なぜ●●なのか?」
●●とは、(要するに)どういうことなのか?」
 といったかたちで、そのテーマそのものを『問い』にして考えます。

 ピンとこない人は、
●●とは、簡単に言うと、どういうことなのか?」
●●とは、ひと言で言いあらわすと、どういうことなのか?」
 というふうに問いかけてみましょう。

 たとえば――

**********
 僕がプロ志望の練習生としてボクシングをやっていたとき――


 僕はプロ意識を身につけるために、『プロ』ということについて考察を重ねました。

 つまり、
「プロとは何か?」
「プロとは、要するにどういうことなんだろう?」
 という自問をひたすらくり返したんですね。

 それに対する『答え』がでても、その『答え』が納得のいくものでない場合は自問をやめません。
 あらためて「プロとは何か?」と問いつづけます。
**********

 納得のいく『答え』――「自分の哲学」と言えるような『答え』がでるまで、ひたすら問いつづけます。


<さらに本質を突き詰めていく思考のやり方>

●●とは、なんだ?」
「なぜ●●なのか?」
●●とは、(要するに)どういうことなのか?」

 その問いをくり返したすえに、納得のいく『答え』(▲▲)にたどり着いたとします。

 それはあなた独自の『答え』であり、まぎれもない「あなたの哲学」です。
 ですので、そこで終了しても良いのですが……。

 さらに、もっと本質にせまりたい場合は、そこで得られた『答え』をテーマにして、
▲▲とは、なんだ?」
「なぜ▲▲なのか?」
▲▲とは、(要するに)どういうことなのか?」
 と自問します。

 たとえば――

**********
 僕は「プロとは何か?」と問いつづけたすえに、
「プロとは、すべてにおいて妥協(だきょう)しないことだ」
 という結論にたどり着きました。

 ですが、僕を指導していたトレーナーは、この『答え』では満足しませんでした。

 トレーナーは言います。
「なるほどな、まちがいじゃねぇよ。でも、なんでプロは妥協しちゃいけねぇんだ?」

 僕は言葉をうしないました。
 僕のトレーナーは、僕がたどりついた『答え』に対して、さらに「なぜそうなのか?」を突き詰めて考えており、さらに上をいく哲学的な『答え』をもっていたのです。

トレーナーとのやりとりのつづきは、こちらをご参照ください。
「ここぞ!」というときはプロ意識で ボクシング(スポーツ)におけるプロとは?
**********

『答え』がでたら、今度はその『答え』をテーマにしてさらに問いを重ねることによって、より深い本質にせまっていくことができます。


本質にせまりすぎることは危険?


 お気づきの人もいるかと思いますが――

 この方法、その気になったらエンドレスです(笑

 結論(答え)がでても、その結論を題材にして、さらに問いをつづけていくことができます。
 ですので、この思考法をおこなうときには、ひとつ注意が必要なんですね。

 それは、
「納得のいく『答え』が得られたら、そこでやめる」
 ということです。

「本質を突き詰める思考法」というのは、際限なくつづけてしまうとたいへん危険なんですね。

 西洋哲学の歴史上、名だたる哲学者たちが正気をうしない、発狂するという末路をたどりました。
 彼らは高度な哲学的頭脳をもっており、本質をたどる能力に長(た)けていました。
 そして、その能力を使い、どこまでも本質を突き詰めていったのですが……

 それをやると、精神が崩壊してしまう可能性があるんですね(汗

 というのも、本質をどこまでも突き詰めていったら、「究極の真理(次元の異なる世界)」にせまることになるからです。

「究極の真理」は人知を超えています。
 それをマインド(思考、理性)で解明しようとすると、「矛盾したもの同士」や「対極にあるはずの対立物」が同一のものとして存在しているという、不条理な領域にはいっていくことになります。
 突き詰めれば突き詰めるほどマインドは混乱するため、心が負荷に耐えられなくなる可能性があるんですね。

 ですので――

 あなたにとって納得のいく『答え』にたどり着いたら、かならずそこでやめるようにしましょう。
 そして、その『答え』を「自分の考え(自分の哲学)」として大切にしましょう。


小説の創作に応用する(本条克明の場合)


 僕の場合は、小説のプロット(物語)を作成するときに、この「本質を突き詰める思考法」を活用しています。

 作品の世界観、物語の舞台を設定するときに、

●簡単に言うと……

 という設定項目を設けています。
 設定をする最初の段階で、「この物語の本質」を書き記しておくんですね。

 そうすることによって、作品のテーマやメッセージが明確になります。
 主題がブレたりせずに、一貫性のある物語がつくれるようになるんですね。


 また、僕の場合はキャラクター(登場人物)を設定するときにも、

●簡単に言うと……

 という設定項目を設けて、「このキャラクターの本質」を書き記すようにしています。

 それによって、キャラクターの性格が一貫したものになります。
 性格に矛盾のないキャラクターは個性が明確にあらわれるので、作中で活き活きと動いてくれます。
 ときには、書いている作者もびっくりするような言動をすることさえあります(笑


本質を理解し、哲学的に生きよう


 本質を突き詰める思考法で得られた『答え』は、正真正銘、「あなた独自の哲学」です。

 本質を理解している人は、表層のことがらにまどわされることなく、真実にもとづいて判断することができます。

この思考法によって得られた「あなたの哲学」は、
目先のことにまどわされない芯(しん)のある『心』と
『本質』を中心に定めたブレない生き方を
あなたの人生にもたらしてくれます。


自分の頭で考える哲学的思考法
「無知の知」はソクラテスの落胆だった?(1)
まけない議論のやり方(2)
総合的に考える方法①(3)
総合的に考える方法②(4)
弁証法でレベルアップする方法①(5)
弁証法でレベルアップする方法②(6)
本質を突き詰めていく思考法(7) 当記事

小説の設定については、こちらをご参考ください。
小説の世界観・舞台を設定する (本条克明の小説作法2)
小説のキャラクター(登場人物)を設定する (本条克明の小説作法3)

この記事では「知識」ではなく「人生で役立つ話」として哲学が語られています。「学問」としてではなく「実践するための哲学」として語られた内容であることをご了承のうえご参考ください。