2018年1月9日火曜日

「対決シーン」で臨場感をだすための文章テクニック(本条克明の場合)


 小説は「活字のメディア」ですので、基本的にアクションの描写にはあまり向いていません。
 小説ではすべてを言葉で表現するため、どうしても説明口調のようになってしまい、アクション・シーンにスピード感や臨場感をだすのが容易ではないんですね。

臨場感とは、「実際にその場にいるかのような感覚」のこと。

「対決のシーンでは、おもいっきり臨場感をだして、迫力を読者に伝えたい」
 そう切に願って、僕なりに表現方法を模索したことがあります。

 今回は、
「対決シーンで臨場感を伝える文章テクニック」
 のひとつを、特別にお教えいたします。


「対決シーン」に臨場感をだす表現法(本条克明の場合)


 以前に、WEB上で『可変人間サーガ』という作品を公開していたことがあります。
現在は公開していません。

 この作品のなかで、


 ↑ユート青い虎の可変人間)



 ↑ファレン金色の鷹の可変人間)


 この両者が対決する場面があります。

 このユートファレンの対決シーン、ふつうに描写すると、こんな感じになります。

**********
 黄金の鷹は、次の攻撃のタイミングを見計らいながら上空を旋回する。

 が急降下して爪を振り下ろしてきた。
 ユートは体をひねってそれを回避したが、かわすのが精一杯で反撃することはできなかった。

 は再び上昇し、ユートの上空を旋回する。

 が急降下して、爪を向けた。
 ユートは体をひねってかわそうとしたが、はその動きを読んでいた。
 鷹の爪がユートを追うようにして軌道を変え、鋭い鉤爪(かぎづめ)がユートの腹部に突き刺さった。

 が、苦痛の叫びを上げた。

 は両手でユートの胴体をがっしりとつかみ、黄金の羽ばたきで空に舞い上がった。

 黄金の鷹は、急降下を開始した。
 地面に向かって加速する。
 ユートを地面に叩きつけるつもりだ。
**********


 ……なんとも味気ないですよね。
 動きをただ描写しているだけで、迫力や臨場感が伝わってきません。

 ですので、僕はこのシーンを、次のように表現しました。

**********
 黄金の鷹は、次の攻撃のタイミングを見計らいながら上空を旋回する。
『ユート! 翼を持たぬお前に、勝ち目はないぞ!』

 が急降下して爪を振り下ろしてきた。
 ユートは体をひねってそれを回避したが、かわすのが精一杯で反撃することはできなかった。

 は再び上昇し、ユートの上空を旋回する。

『ファレン、そこからこの場所をよく見るんだ! 混乱、敵意、殺戮……これが、あなたの望む平和なのか!』

『お前こそ、小事(しょうじ)にとらわれずに大局(たいきょく)を見よ! それだけの力がありながら、なぜそれを世のために使おうとせぬ! お前の目は、おのれのことしか見えていない!』

 が急降下して、爪を向けた。
 ユートは体をひねってかわそうとしたが、はその動きを読んでいた。
 鷹の爪がユートを追うようにして軌道を変え、鋭い鉤爪がユートの腹部に突き刺さった。

 が、苦痛の叫びを上げた。

 は両手でユートの胴体をがっしりとつかみ、黄金の羽ばたきで空に舞い上がった。

『ユートよ、なぜわからぬ! 俺はお前を信じていた。いや、感じていたのだ、お前は俺と心を同じくする者であると! なのに……なぜだ、なぜ俺と志をたがえる! なぜ主(しゅ)のために戦おうとしない! なぜだ、なぜなんだ、ユート!』

『私はいまだ福音(ふくいん)を得てはいない……私には、主(しゅ)の御名(みな)において何かをする資格などない』

『お前は福音を隠れみのにして逃げているだけだ! 行動するのが怖いのであろう? 失敗するのが、敗北するのが、間違いを犯すのが怖いのであろう? だから、お前は行動することから逃げているのだ! その力で何をすべきかはわかっているはずなのに、それでもお前は逃げている!』

『私は恐れてはいない。逃げてもいない……まどわずに、ただ信じるだけだ』

『では、なぜ福音を口実に自分だけの世界に閉じこもる? それで世の中を変えることなどできるものか!』

『私には、世の中を変える気などない』

『愚かな! それで本当に平和がやってくると思っているのか? 霊祖ムオン・ノーフォーム様が迫害を受けながら福音を述べ伝えたのはなんのためだ? 世の平和を願い、地上天国の実現を望んでのことであろう!』

『ムオン様は、武力を用いたりはしなかった』

『黙れ! 力ある者には力ある者なりのやり方があろう! お前も聖職者の端くれなら、ノーフォームの教えのために立ち上がって見せろ!』

『あなたの言うノーフォームの教えは、教会の都合のことではないか!』

 ファレンに困惑が見られた。
 ユートの腹部をつかんでいる握力が、一瞬、弱くなった。

 だが、黄金の鷹はすぐに戦意を取り戻し、何かを吹っ切ったかのように急降下を開始した。
『さらばだ、ユート! その閉ざされた心とともに砕け散れ!』

 地面に向かって加速する。
 ユートを地面に叩きつけるつもりだ。
**********


 もう、お気づきかと思いますが――

  • 動作の描写
  • 両者の『想い』や『感情』のぶつかり合い(議論)

 そのふたつを同時進行で書きあらわしました。

 そもそも、人と人が争う時というのは、単なる物理的(肉体的)な衝突ではなく、その根底には、両者の『想い』や『感情』のぶつかり合いがあるものです。
 それを「対決の動き」と同時進行で表現しました。

 そして、登場人物の『想い』や『感情』を書きあらわすことによって、読者は共感したり、感情移入したり、あるいは反論したりと、読みながら『想い』や『感情』を突き動かされることになります。

 そのようにして読者の『心』を動かすことができれば、
「まるで自分も一緒に戦っているかのような感覚(=臨場感)」
 を感じてもらうことができる――

 僕はそう考えたんですね。

 そしてこの試みは、僕自身は成功だったと確信しています。


ある分野では古くからある表現法


 もしかすると、この記事を読んで、
「なるほど、いいアイデアだ! 本条克明って頭がいいなぁ!」
 と感心してくださった人もいるかもしれませんが……

 すみません、じつはこれ、ある分野ではおよそ40年前からずっと使われている表現方法だったりします。

 その「ある分野」というのは――

 もちろん、ガンダムをはじめとする「リアルロボット系」のアニメです。

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<参考動画>
新機動戦記ガンダムW Blu-ray Box 特装限定版 PV(2017年6月23日発売)
BANDAI NAMCO Arts Channel様の動画 (YouTube)
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 僕が対決シーンや戦闘シーンに臨場感をだす方法を模索していた時期に、なにげなくテレビをつけると、たまたまリアルロボット系のアニメを放送していて、
「なんて小説向きな戦い方なんだ!」
 と、おもわず感動してしまいました。

 以来、この表現方法を、ちゃっかり自分の小説にもとりいれています。


臨場感をだすには


 対決したときに感じる『想い』や『感情』――
 それを読者の心に呼び起こすことが、臨場感をだす秘訣だと思います。

 その方法のひとつとして、
「登場人物の『想い』や『感情』のぶつかり合いを、動作と同時進行で描写する」
 というやり方を、僕は用いています。

 あくまでも「本条克明の場合は」という表現方法なのですが、アクション・シーンの書き方を模索している人は、ぜひ参考になさってみてください。


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